弾けたフレームから飛び出したものが何であったか?
彼らのうち、何人が理解できただろう。
50をゆうに越えるチャイルドファンネルの狂乱の宴はただの一度。
基点となるマザーファンネルたちを結んで形成される死の結界に、最初から誘い込まれていたと誰が気付いたか?
閃光が消え、真空の闇の中をギラ・ドーガの無数の残骸が漂っている。
コクピットの中、ハサウェイは呆然と呟いていた。
「止めたかった…止めたかったんだ…・・・でも…違うんだ……僕は……僕は殺したかったワケじゃない…。」
ナウシカアの歓声は耳に届いていない。
ビックスとウェッジの喝采も聞こえはしない。
コクピット内に”ノイズ”が響く。
コリントス・コロニー――”アナハイム”を救った英雄の頬を、涙が伝っていた。
微笑む家族の顔。
子供のはちきれんばかりの笑顔。
妻と思しき女の顔…。
あの瞬間、狂乱の宴に呑まれた者たちの思念がサイコミュを通してハサウェイの精神に怒涛となって流れ込んでいた。
吐き気を催すまでに……。悔恨の念、家族への思慕、子への愛情…恐怖――。
敵味方何十人という人間のあらゆる感情がハサウェイの中に渦巻き、その濁流に窒息しそうになる。
闇だ…どす黒い闇……黒く黒く…どこまでも黒い…血の闇だ……命を奪う事の本質――。
――守りたかった人たちは…誰にでもいたんだ…。
両手で涙に歪んだ顔を覆った。最後に映ったのは暖かな光――。
――クェス…。
陽炎のように少女は消え、闇だけが残った。
一人ぼっちの世界…。そこでハサウェイの意識は途切れた。