視界が白く染まり、ハサウェイは目を細めた。光量に合わせて瞳孔が調整されるまでの生理的反応だ。
白い天井、白い壁…飾り気の無い医務室のベットにハサウェイは寝かされていた。
「良かった…目が覚めたんですね…少尉」
透き通った優しい声。プラチナゴールドの髪と清楚な顔立ち…管制を勤めるナウシカアだ。
心なしか目が赤い。頬もちょっと赤みを帯びている。
「あの…手…」
ナウシカアの言葉に視線をその手に向ける。
「あ、ゴ、ゴメン!」
慌てて彼女の手を離す。バツの悪そうなハサウェイを察したか、ナウシカアは何か話題をと考えをめぐらす。
自分を気遣うナウシカアが、少し可哀想に見えてしまった。
「僕は…どれくらい眠ってた?」
「2時間半くらいです…と…2時間40分くらい…ですか」
ナウシカアらしい答えだ。
「ナウシカア…事態の把握が僕にはさっぱりだ、教えてもらえないかな?」
促され、ナウシカアは報告をメモしたノートの写しを手に取り、まだ正式なものではないという確認の上で伝えた。
重傷者こそ出たが、ジェガン隊に死者は出ていない事。
サイコミュ兵器使用による精神的負荷のためにハサウェイは昏倒した事。
ビックスとウェッジが、オデュッセウスを回収し、彼を医務室へと運んだ事…。
「助けたヤツラに、助けられちゃったな」
力無くハサウェイは微笑んだ。
分かっているのだ。
ナウシカアが敢えて伝えたがらない事があることを…。
しばらく白い部屋に沈黙が続いた。時折風に揺れるカーテンが、何故か物悲しく見える。
「ナウシカア…外壁で防御にあたった兵達は…?」
沈黙を破ったのはハサウェイだった。自分の迂闊さが招いた結果だ。当然それを知る義務がある。
「貴方のせいじゃないからっ!!!貴方は…全力でやったわ!」
ハサウェイの考えていることは、ナウシカアにはよく分かった。強過ぎる責任感は、時に自らを苦しめる鎖となる。
目を強く閉じた。一呼吸置き、ナウシカアは途切れそうな声で伝えた…。
「砲座の要員は5名を除いて…全員……」
ギュッっとシーツを強く握り締める。食いしばった歯がギリリと音を立てた。
「ハサウェイ…少尉……私、これで退室しますね…
枕の横に掛かってるブザー、御用があったら鳴らして下さい…。看護員、来ますから」
察したナウシカアが席を立つ。
ありがとう。というハサウェイの声を肩越しに、そっと会釈するとパタンとドアを閉じた。
一人になったハサウェイ――。涙が、一筋、二筋と流れた……。