深緑の機体と黄色い機体が斬り結ぶ。
深緑の機体はギラ・ドーガ。ライフルは既に撃ちつくした。――さっきの腑抜け共は違う…。この黄色いジェガンは…強い!
横薙ぎに襲い掛かったサーベルをすんでのところでサーベルで受け留める。
2本のサーベルが閃光を迸らせ、ギラ・ドーガのパイロット、ジェシーの顔を焼く。
彼女とて『ヘタリア』の突撃部隊の一人だ。白兵戦でまで、こうも押されるとは!?
ジェガンのパイロット、ビックスも感じていた。
よくあるテロリスト――MS操縦のいろはを齧っただけの素人の寄せ集めとは違う…ジオン残党か?実戦慣れしたヤツ!!
これだけの時間を俺にかけさせるか?ライフルはあと何発ある?2発か?1発か?
ウェッジもてこずっているようだが、フォローは出来そうにない…。
「ココが分かれ目だな!」
ビックスが叫んだ。サーベルの出力を落とす。
反力を失ったギラ・ドーガのサーベルが大きく弧を描き、反動で大きく姿勢を崩した。
そこに一閃。
「ぐぅううっ!!」
シールドで切っ先を変えた。左腕がもげかかり、激しく火花を散らす。シールドの弾薬が誘爆しなかったのは奇跡だった……が――。
「あ…」
完璧なタイミング。さっきの一撃を防ぐのは計算の内か?
斬り付けた際の運動エネルギーは2機の間合いを離す離脱運動を補うには十分だった。
見開かれたジェシーの瞳に、ライフルを構えるジェガンが焼き付けられる。
――最後の一発だ!
必殺を確信してビックスはトリガーに指をかけた。
だが…。
トリガーを押した瞬間、彼のライフルは爆散した。
――!?
「もう1機来たかっ!!」
迂闊だった。予想以上の相手に気を取られ、接近に気付かなかった…だがこの距離で?ライフルを撃ち抜くだと!?
右腕は動かない。ライフルの爆発で機関不良を起こしたか?
残る武器はサーベルのみ。しかも機動性まで削がれた…。死の文字が頭を掠める。――マズイ!!
「大佐!すみません!」
「今は少佐だよ、ジェシー…だが、連邦にもまだまともな兵はいるようだな」
「すみません、少佐…強敵です!お気をつけて!」
幾分色づいた声に苦笑するチンクエだったが、その眼は冷徹に敵機を捉えている。
――直撃を狙ったが…ジェシーを救えたなら良しとするか。
苦し紛れにビックスが放ったペイント弾のミサイルランチャーを易々とすり抜けた彼のライフルは、だが在らぬ方向へと撃ち出された。
「え?」
一瞬ワケが分からなかったビックスであったが、その意味を解した時彼の目は見開かれた。
「!?ウェーーッジ!!」
――俺じゃない…ウェッジを狙ったのか!
歯噛みするビックスであったが、その耳に動揺はあるがビックスの声が届く。
「すまん!ビックス、メインカメラを持っていかれた!…なんだ!?
仲間の背中越しに撃ちやがった??当てない自信でもあったってのか!??」
狙える箇所が頭部だったからこそのメインカメラの破壊か?
だとすれば敵機とのほんのわずかな座標のズレが、ウェッジを救ったのだ。
「落ち着け!目の前の敵に集中しろ!」
精一杯の一言だった。チンクエから放たれる正確な射撃は確実に彼の命の灯火を消そうとしている。
1発目を回避したが、そこに2発目が撃ち込まれ今度は左腕を持っていかれた。
相手の回避運動までコントロールする射撃技術。ビックスでなければこの2発で終わっていただろう。
「趣味がワリーんだよクソったれ!!」
ペイント弾だが選択肢は無かった。――最後の望みは”アイツ”!”アイツ”が来るまで生き延びろ!
攻撃力など皆無なペイント弾…。幸か不幸かチンクエがそれに気付くことはなかった。
バルカンはチンクエ機の赤い塗装を幾ばくも汚すことなく空しく撃ちつくされ――。
「任務ご苦労!戦士よ!お別れだっ!!」
正面――無情な死の宣告と共に赤い死神はサーベルを振りかざしていた。
「赤い彗星かよぉおっ!!?お前はぁあああ!!!?」
ビックスの絶叫が、轟音に掻き消された。